⬇︎蕎麦鑑定士 認定会、食味試験の様子
【この文章は、蕎麦鑑定士の4級テキストより、一部を抜粋したものです】
講師
池田清和/ 池田小夜子
写真と文 片山虎之介
「蕎麦鑑定士」4級テキストより抜粋
蕎麦を食べると健康に良いということは、多くの方がご存知です。
でも、どのように良いのか、どの成分が、どのような働きをするのかということになると、まだまだ知られていないことが沢山あります。「蕎麦も、米も、うどんも、でんぷんだから、同じようなものだろう」と誤解している方も少なくありません。
このテキストでは、健康維持に役立つ成分を豊富に含む、蕎麦という食物の「力」について、詳しくお知らせしたいと思います。ソバの栄養を研究している神戸学院大学栄養学部の池田清和教授、池田小夜子教授の監修のもと、蕎麦が人の健康に、どのように役立つのかということを、科学的な視点から検証してみましょう。
蕎麦が健康に良いことは、江戸時代から知られていた
蕎麦は江戸時代から、健康に良い食べ物であると認識されていました。
元禄10年(1697)に出版された『本朝食鑑』は、様々な食品が人の健康に及ぼす影響などを記した、いわば食材の百科事典のような本ですが、そこには蕎麦について次のようなことが書かれています。
●蕎麦を食べると気分がおだやかになり、食欲がわく。
●蕎麦は胃の働きを活発にし、腸をしっかりさせ、便通を良くする。
●蕎麦湯を飲むと良い効果がある。
当時、江戸の町には蕎麦屋が多く、庶民にとって蕎麦は、日常的に食べる身近な食物でした。まだ栄養学が未発達な時代に、なぜこのようなことが分かっていたのか不思議でさえありますが、ここに書かれている蕎麦の特性は、現代の科学でも証明された事実なのです。
蕎麦は、以下に説明するような、様々な有用成分が含まれているのです。
ルチンは血管の弾力を保つ力があり、高血圧症を予防する
蕎麦に含まれるルチンは、生活習慣病の予防に役立つ物質として広く知られています。ルチンは、赤ワインなどに含まれるポリフェノールの一種です。
ポリフェノールが体に良いということが多くの人に知られたのは、1993年に起きたある出来事がきっかけでした。
フランス人は、動物性のチーズや肉をたくさん食べて、ワインを沢山飲むのに、なぜか心臓病で亡くなる人が少ない。その理由を解明するために疫学調査が行われたのです。
調査の結果、ワインに含まれるポリフェノールの一群の中の、レスベラトロールやカテキンなど、何種類もの物質の働きで、フランス人の健康は守られているのだということがわかったのです。
この調査結果がアメリカで放送された直後、赤ワインを買い求める人が酒屋に押し掛け、店頭から赤ワインが姿を消したといいます。
私たちの町の蕎麦屋で供している蕎麦にも、このポリフェノールのルチンが豊富に含まれています。ワインにはレスベラトロールなど、また蕎麦にはルチンなどの、それぞれ特色あるポリフェノールが含まれているのです。
ルチンは、植物が紫外線から自らを守るために作り出す、日除けの日傘のような物質です。これが血管の弾力を保ち、高血圧症や動脈硬化症など、生活習慣病の予防に役立つのです。
一枚のざる蕎麦を食べると一日に必要なルチンが摂取できる
生活習慣病の予防に必要なルチンは、一日、ざる蕎麦一枚程度が適量だといわれています。
毎日、ざる蕎麦一枚に含まれる量のルチンを摂取すれば、体に良いということなのですが、では毎日一食、蕎麦を食べ続ければ良いかというと、それだけでは不十分です。蕎麦は通常、蕎麦つゆを付けて食べるものです。蕎麦つゆには、多くの塩分が含まれているので、毎日、蕎麦つゆをしっかり付けて食べ続けていたら、塩分の過剰摂取となり、高血圧を助長する結果にもなりかねません。
塩分は極力控えて、蕎麦を食べることが望ましいのです。
そうは言っても蕎麦をおいしく食べるためには、味付けも必要です。その対策は、後半の「カリウム」の項や、「健康に良い蕎麦の食べ方」の項でご紹介しましょう。
食物繊維は脂肪の吸収を抑え、血中コレステロール値を改善
焼き肉などの動物性食品を沢山食べた場合、体内に多くの脂肪分が取り込まれ、これが体に吸収されると、血中コレステロールの過多という結果になります。
このような場合、蕎麦を一緒に食べると、蕎麦に含まれる食物繊維が、血中コレステロールを改善する働きをしてくれるのです。いったい、どのようなシステムで、コレステロールの吸収を防ぐのでしょうか。
動物性食品などに含まれるコレステロールは、消化管を流れていくとき脂の状態になっています。
人間の体が、食べたものを吸収するには、水に溶けた状態でないと消化吸収できません。だから消化管を脂が流れただけでは、吸収されず便に出てしまいます。
しかし、ものを食べると消化を助けるために、肝臓から胆のうを経て胆汁酸が分泌されます。それが消化管の中の脂に接触すると、脂は溶けた状態になり、コレステロールが体に吸収されてしまうのです。
蕎麦に含まれている食物繊維にも、胆汁酸と結合する力が示唆されています。消化管の中で胆汁酸を横取りしてしまい、コレステロールと胆汁酸の接触を邪魔するのです。
蕎麦に限らず、野菜や海藻に含まれる食物繊維も同じ働きをしますが、野菜類などは大量には食べにくいもの。蕎麦のように、主食の代わりになるような食べ物だと、大量に摂取できるので効果が高まるのです。
※写真/蕎麦と共に、食物繊維を沢山含む茸や、ビタミンDが豊富な鰹節、多種類のビタミンを含む胡麻など、様々な食材を盛り合わせた蕎麦。
肉を食べたら締めには蕎麦
蕎麦に含まれる食物繊維は、便通を良くし、腸を掃除する効果があります。大晦日に年越し蕎麦を食べるのは、食物繊維で体の中がきれいになることを、昔の人は経験的に知っていたからでしょう。
1970年代には、大腸がんや大腸にポリープのできる大腸憩室(けいしつ)症は、多くはありませんでしたが、今ではそれらの病気の発生率は高くなっています。現代人は食物繊維の摂取量が少ないことが、病気が増えた原因のひとつだと考えられています。
食物繊維は腸の病気を予防し、血中コレステロールを低下させ、糖尿病を改善する働き者です。脂肪の多い肉を沢山食べたときには、必ず食物繊維を摂るようにしたいもの。肉を食べたら、締めは蕎麦でするのが、理にかなっているのです。(・・・続きは、蕎麦鑑定士のテキストでお読みください)
●この文章は、蕎麦鑑定士の4級テキストより、一部を抜粋したものです。蕎麦鑑定士認定制度を受講すると、このような内容で、16編のテキストを配布します。受講をご希望の方は、下の写真をクリックして、蕎麦鑑定士の公式サイトをご覧ください。
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